コーディネーター
インタビューCoordinator Interview

ホーム参加者の声コーディネーターのインタビュー清水 千恵実
My JOI Story
第17期 2018年8月〜2020年7月
アーカンソー州 / コンウェイ / アーカンソー中央大学

清水 千恵実さん

音楽、英語、海外。子どものころの「好き」が原点

英語や海外に興味を持ったきっかけは、音楽でした。それまでピアノを習ったり、師範である母に箏を教わったりしていましたが、小学校高学年くらいから洋楽を聴くようになり、その世界に憧れるようになりました。
ツールとしての語学の面白さに目覚めたのは、中学生のときです。姉妹都市の交流プログラムで韓国に行ったことや、当時私の中学校に派遣されていた外国語指導助手の方が毎週母に箏を習いに来ていたので、片言の英語で話したり一緒に演奏したりしたことが大きかったと思います。

教育という仕事を肯定するには、回り道が必要だった

大学は教育学部に進学し、卒業後3年間、小学校教諭をしていました。当時、子どもも大人も過密スケジュールに追われて心に余裕がないように感じ、もっと柔軟にできないかとモヤモヤしながらも、既存のシステムの中で自分ができる限界を決めつけてしまう状況でした。
システムは良くも悪くも簡単には変えられないし、視野が狭いと行き詰まるので、いろいろな経験をして自分の限界の枠を広げたいと思い、卒業前から志望していた青年海外協力隊に参加しました。
カンボジアで小学校教員養成校の授業補助をする傍らNPOと協力してワークショップなども実施しました。日本と異なる子どもの育て方や成長の仕方、いろいろな国の人の考え方や現地の教育現場に触れて、教育はさまざまな角度から捉えることができると実感。可能性が無限にある面白い仕事だと肯定することができました。
カンボジアから帰国後、「もう少し学校教育とは別の経験がしたい、学校の外で子どもたちに関わりたい」という思いがあったので、すぐには学校教育に戻らずアウトドアの会社に就職しました。そこでは、子ども向けプログラムの企画運営や商品開発などを担当し、教員とは違った経験をすることができました。

JOIなら社会貢献と学びが同時にかなう

その後、将来的に教育現場に戻ることを念頭に置きつつ、先進国の教育を学ぶと同時に好きな英語に触れられる仕事がないか探したところ、JICAの仕事探しのポータルサイトでJOIプログラムを見つけました。JOIの2年という集中できる任期、小中学校などの現場を回るという活動内容、そして自由度の高いプログラムに魅力を感じました。好きな和楽器の演奏などの今までやってきたことを生かしながら自分もアメリカで学ぶことができると思い、応募しました。

前任者の「巻き寿司」と、私の「和楽器」

私が着任する直前まで15期JOIコーディネーターの方が隣の大学に赴任されていたおかげで、現地は活動しやすい状況になっていました。その方のアウトリーチ先(出張授業をおこなう学校など)のリストをもらって連絡したところ、後任者としてまた来てほしいという反応が多くありました。JOIの活動は、15期の方と同じ内容に私の得意な内容を追加しました。15期の方が実施された巻き寿司作りが好評で、再度同じ授業をリクエストしてくれた学校もあります。巻き寿司作りに使う大きなボウルやビニールシートなど「道具はこちらで用意するからぜひ来てほしい」という申し出に前任者の作ったつながりを感じ、身が引き締まる思いでした。
訪問先から「あなたの好きな日本のことを教えて」と言われたときは、私ができることをいくつか提案しました。その一つが和楽器の授業です。私が箏や三味線を演奏した後、現地の人に実際に音を出してもらうと、初めて触れる日本の伝統楽器に興味を持ってくれました。知識も大切ですが、感覚で伝えられる楽器や音楽の強さに改めて魅力を感じた瞬間でした。

英語力不足を補ってくれた周りのサポート

私は大学で専門的に英語を学んだ経験も海外留学の経験もなかったので、英語力不足で苦労をしました。特に、日本文化の精神的なことについてワークショップで質問されても、その場でうまく答えられず、後日、文章にして回答することもありました。現地で出会った方々に授業中にフォローしていただいたこともあります。
また、現地の上司のような存在である私のスーパーバイザーは、日本語が堪能だったので、学内の大切な交渉をする際は言葉の問題で失礼がないように同席してもらうなど、助けていただいたのもありがたかったです。英語力不足というだけでやりたいことを諦めなくていい環境があったことは本当にラッキーだったと思います。

「面白い!楽しい!」で多様性を認めるきっかけをつくる

日本独特の静けさや華やかさを持つ箏の音には、アーカンソー州の大学の先生たちも興味をもってくださり、ワールドミュージックの授業などに呼んでいただくこともありました。キャリアを考える大事な時期である大学生に、異文化に触れる機会を提供できてよかったと思います。実際、異文化交流は初めてで面白かったと好評でした。
「面白い」という感情は、相手を肯定的に見ることにつながります。日本文化に限らず他国の文化を楽しむ機会を提供し、「知らなかったもの」を受け入れる雰囲気を広げることには、大きな意味があると思います。JOIの活動は日本を好きになってもらうというより、多様性を認め合うきっかけになると信じて活動していました。

学生達と一緒に作り上げたイベント

特に印象に残っている活動は、夏休みに大学で行った子ども向けのジャパニーズキャンプでの流しそうめんです。現地の人にとって竹の台は珍しいうえ、食べ物が流れてくるという遊びの要素もあって、とても好評でした。太くて立派な竹の調達に苦労しましたが、竹林から切り出した竹の運搬や台の制作など、現地の友人や留学している日本人に大いに助けてもらったことも思い出に残っています。その留学生の中に、祖父から竹細工を教わったという方がいて、竹の台を制作してくれました。
また、その留学生の力を借りて鹿威し(ししおどし)も作りました。現地の子どもたちに「鹿威しは日本の特徴的な文化のひとつで、静寂の中の一音を味わうもの」だと紹介。不思議だな、よくわからないな、良い音だな、など様々な反応が面白く、「伝えること」「それに反応をもらうこと」を留学生と一緒に体験できてよかったと思いました。

配属先の大学で開催したジャパンフェスティバルでも、運営や料理などで学生達のパワーに本当に助けられました。大学内の調理室が使えなくなるハプニングがありましたが、学生の中に料理の上手な人がいて料理チームを仕切ってくれたり、現地のケータリングサービスの方に提供してもらった場所でたこ焼きや焼きそばを作って大学内の会場に運んだりして、切り抜けることができました。会場に料理が届くその瞬間まで私も現地で待っていた学生もとても不安だったので、届いた瞬間は歓声が上がったのを覚えています。 一番よかったのは、日本人留学生や他の学生たちがジャパンフェスティバルを通じて交流を深め、楽しみながら一緒にイベントを作り上げてくれたことです。一人で活動することもありますが、さまざまな人とコラボレーションをして意見を交わしながら一つのものを作り上げると、時に思わぬ良い方向に進み、とても面白いと感じました。

本気で楽しむことが大切

アメリカ人は楽しむのが上手だと思います。私の滞在中、学校の先生たちがカー(Car)パレードを企画し、自分の車をキラキラのモールや生徒の名前などでデコレーションして、生徒が住む地域を走りました。コロナ禍でオンライン授業が長く続き、家にこもりきりで孤独だったからか、子どもたちは家の前に来た先生の“デコ車”を見て、感動して泣いていました。こういう、本気で楽しむことを忘れない大人が近くにいることは大切で、教育現場でも遊び心があるのはすばらしいことだと思います。子どもたちは学校に行くことにワクワクできる。私も子どもたちにそんな環境を提供できる大人でありたいです。

力の限り面白い授業をつくる

帰国後、山梨県の中学校で音楽教諭として働き始めて1年弱が経ちますが、新卒で勤めた小学校で感じていた限界は、今はあまり感じません。その理由の一つとして、JOIの経験を通して、誰かと協力することで物事が面白い方向に進むことがあると知ったからです。最近では、地元在住の太鼓奏者や尺八の方を招いて一緒に授業を行ったり、アメリカで出会った友人とビデオ通話を繋ぎ、カントリーミュージックを演奏してもらったりしました。生徒達にとって様々な方の表現に生で触れることは、音楽の面白さを知る上で良いチャンスになっているな、と授業中の彼らの表情を見て思います。これからもいろいろな方に協力をお願いしながら、自分ができる最大限のことをしたいと思っています。

音楽の授業を通して伝える「多様性」

世の中にはいろいろな人がいて、いろいろな生き方があります。
授業なので成績は付けますが、音楽への感じ方や表現に正解はないし、誰かの心をうつ音楽が生まれ続けているのはいろいろな人間がいるからだと伝えています。特に進路のことでナーバスになっている生徒には、生き方は1つではない、とアドバイスしています。
私自身がJOIへの参加をはじめ、様々な場所で学んだ経験を通して、「教員はこうあるべきだ」と自分で自分を追い込んできた枠から解放されたから言えるようになったのだと思います。

これから参加したいと考えている人、関心がある人へのメッセージ・アドバイス

JOIプログラムは、人に興味がある人、新しい世界を楽しめる人に、もちろんですが、今の日本社会の現状に疑問を抱いていて、前向きな解決を求めている人にもぜひお薦めしたいです。それは、日本を外から見ることで物の見方が変わったり、自分のもつ違和感が言語化できたりするようになるからです。
私は日米の教育を比べてみることで、アメリカの教育制度に魅力的な点を多く発見しました。しかしそれと同じくらい、日本を見直すこともありました。このように多様な価値観と方法を知る機会こそが、国際交流の意義なのではないでしょうか。
JOIプログラムへのチャレンジは、今対峙しているものへの別の視点を欲している人にとって、新たな視野や価値観を持つ機会になるはずです。

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