やりたいことに挑戦し、自身の経験を地元に還元したい
子どものころから海外に関心を持っていました。親が国際交流プログラムなどに参加させてくれて、小学生のときにタイでホームステイ、中学生のときにアメリカのシアトルでのサマースクール、高校3年間はニュージーランドへの留学を経験しました。
日本の大学で政治行政を専攻し、いずれは公務員として地元に還元したいと思いつつ、やりたいと思うことには挑戦したい、民間企業も海外も経験してから公務員を目指しても遅くないと考え、卒業後は民間企業に就職しました。
使命感や責任感を持って海外で活動したい
企業のマーケティング部門で働きながらも、海外で実績を積み、キャリアとして履歴書に書ける仕事がしたいと考えていたところ、知人が国際キャリア総合情報サイトにJOIプログラムが掲載されているのを教えてくれました。
募集締め切り直前のタイミングでしたが、急いで応募しました。地元の自治体の採用試験には自己推薦枠があり、面接重視と聞いていたので、JOIの草の根レベルの活動は自信を持って自分を推薦できる実績になると考え、やってみようと思いました。
JOIにはミッションも責任もあります。私の北米圏への憧れや実際のアメリカを知りたいという好奇心を満たすだけでなく、使命感や責任感を持って経験を積むことができる点も魅力を感じました。
少しずつ、バトンをつなぐように広がった活動の輪
私の派遣先は大学でした。派遣時は夏休み中で、まず学内のいろいろな学部の人たちに声を掛けて自分のことを知ってもらい、その人たちから大学関係者や大学以外の教育関係者、地域の団体と、連鎖的に紹介していってもらいました。
活動が始まると、少しずつですが、いろいろな人に認知してもらうことができました。配っていたパンフレットを見た人から電話が掛かってきたり、私の活動が取り上げられた新聞記事を見た人から声が掛かったり、一つずつバトンを渡すように活動の根が広がっていきました。
肉じゃがやお好み焼きを通して見えた興味の違い
着任当初は、現地で誰にどんな協力をお願いできるのか分からなかったこともあり、自分ができる活動から始めました。
スーパーバイザーらの提案もあって「ハンティントンズ・キッチン」というコミュニティーキッチン用の施設で、日本料理のクッキングクラスを始めたのは大きかったと思います。野菜の切り方から調味料を入れる順番などを一から教え、少し手の込んだ肉じゃがやお好み焼きなどを作りました。ガスコンロ付きのキッチンカウンター3~4台を使い、大人数の教室を開くこともできました。
料理教室の参加者募集ポスターを作る際、お好み焼きをどう表現しようか悩んでいると、現地の人が「ベジタブルピザがいい、ピザと書けばハンティントンの人は来る」と教えてくれました。実際にそう書くと、たくさんの人が来てくれました!
料理によって玉ねぎの切り方を変えたり、醤油より砂糖を先に入れたり、そんな細かいことになぜこだわるのかと不思議がられましたが、文化が違えば興味を抱く部分も違って面白いと思いました。

種をまいたという手応え
JOIの活動では、誰かの中に何かが残るという感覚をかみしめることができ、そこに一番やりがいを感じました。 2年間では花が咲くまで見届けられないことが多いですが、自分が種をまいたという手応えは十分得ることができます。これは他では得難い、大切な経験です。
例えば、料理教室の参加者が、砂糖を先に入れることをなんとなく覚えていてくれるだけでいいのです。折り紙を教えた子どもたちが将来日本語を学ばなくても、親になったときに「昔、日本人が来たさね」なんて、子どもに昔話のように話してくれれば、十分意味があると思います。少しずつ受け継がれることが、とても大切です。そこからつながっていくはずですから。

“できる誰か”に協力してもらい広がった活動の幅
活動当初は日本料理など、自分が知っている範囲のことしか伝えられませんでした。あるとき現地の人から「日本流のフラワーアレンジメント」の要望を受け、華道ができる方にお願いして教室を開いたことがありました。それをきっかけに、自分だけではできなくても、できる人を探せばいいと気付きました。
学校訪問で折り紙をする場合、鶴を折る指導が私一人では難しくても、サポートの人を増やして4~5人ずつ見てもらえば、クラス20人に教えることが可能になります。折り紙の中でも鶴は難しいとされていますが、この方法なら子どもたちも折ることができるのです。

人と協力して事業を成し遂げた実績が評価され、公務員に
帰国後に結婚し、引っ越し先の自治体で、海外スポーツチームの事前キャンプ誘致や通訳などを専門とする非常勤職員として勤務しました。出産後、地元に還元したいという思いは変わらず、試験を受けて公務員(正職員)になりました。
海外で社会活動の経験がある人の枠に応募しましたが、選考では単なる海外経験ではなく、自分以外の人とつながり協力してプロジェクトを成り立たせた実績が評価されたと思います。
まちがよりよくなるように人と人をつなげる
正職員になってからも海外スポーツチーム誘致に関する業務を担当し、東京オリンピック・パラリンピック終了後の今は県外や海外からのスポーツチームの誘致・受け入れなど、スポーツを通した交流や地域振興に取り組んでいます。自分が住むまちがもっとよくなるように、行政と民間、民間と民間の橋渡しをする公務員の仕事と、事をなすために誰かと誰かをつなげるというJOIの活動との共通点を感じています。
JOIへの参加は、地域社会に貢献したいと思う人なら直接生かせる経験だと思います。公務員にも中途採用枠は結構あるのです。

これからJOIに応募する方へのメッセージ
JOIは、特殊な経験や資格、専門性を持っていない「等身大の日本人」がミッションを持ち、海外で活動するチャンスを得られる貴重なプログラムです。今自分が持っているもので貢献したいと考えている人や、日本社会に興味を持ち、それを誰かに伝えることが楽しいと思う人に向いていると思います。
現在、海外で働くための選択肢は数多くありますが、JOIを選択したことで他のどの選択肢よりも濃密な経験ができたのではないかと思っています。社会の中で誰かと共に生きているという感覚が深く心に刻まれた2年間。今もそれがすごく活きています。