未知への好奇心
小学生の頃から毎年、家族で海外旅行に行っていました。行き先は日本でも馴染みのある西欧圏ばかりだったので、大学では自ら機会を設けないと学べないことを勉強したいと思い、ロシア語を専攻しました。そしてロシアへの留学も経験しました。
私は「知らないものを知りたい」という好奇心があるタイプです。JOIプログラムの同期もみんな、未知のコトに出会うのが大好きで、JOIプログラムで起こるすべてを楽しんでいたように思います。大学卒業後に就職した会社では、海外と関わることが少なかったので、国際色豊かなシェアハウスに住みながら趣味の範囲で異文化交流をしていました。
しかし、自分の海外経験を、仕事や社会貢献の活動に活かしたいと思うようになりました。そのとき偶然JOIを見つけたのです。JOIは派遣先も活動内容も多様なので、いろいろなコトが出来るのではないかと、好奇心が呼び起こされました。
応募する直前まで、JOIプログラムが自分のキャリアに活きるか不安でした。しかし「JOIは千載一遇のチャンスなのではないか、この機会を逃してはいけない」という思いが不安を上回り、応募をしました。2年という派遣期間は、自分が何になりたいかはっきりしていなかった私にとって、ちょうどいい長さでした。JOIの目的である、「米国の草の根レベルで日本への関心と理解を深める」を達成するためにも、ほどよい長さだと思います。
異文化交流の機会を作る存在となる
派遣先がウェストバージニア州のグレンビルに決まり、情報収集するうちに、人口は8,000人ほどの小さなコミュニティで、かなり田舎町であることがわかりました。少し困惑はしたものの、大変だとは思いませんでした。最初から、日本や都市部とは違う環境という前提だったからです。
また不便であろうと、それを当たり前として生活している人がそこにいます。自分もそこに身を置く限り、楽しまないと損だと思いました。


赴任当初は、私の得意分野である茶道などの伝統文化を前面に出して、活動をしていくつもりでした。しかし実際にやってみると、現地の方々にはあまり響きませんでした。なぜなら彼らは、異文化交流に関心はあっても、日本に興味があるどころか、日本さえ知らないような人ばかりだったからです。
そこで私は、活動の方針を、日本を多少知っている人に対してさらに深く知ってもらうことから、日本をまったく知らない人に対し、アクティビティを通して日本を知ってもらうことに切り替えました。
アメリカはダイバーシティ(多様性)が推進されているイメージがありますが、子どもたちに関しては、ダイバーシティが何かさえ知らないようでした。そこで自分の役割を「異文化とは何かを伝えること」だと考えるようにしました。学校訪問の活動内容を、日本文化の紹介ではなく、異文化交流の機会としてアプローチしたところ、異文化交流が大切だと考える先生方から依頼が来るようになりました。
活動の中でも印象に残っていることは、学童保育での出来事です。いつも目を輝かせて楽しんでくれている小学生が、実は家庭環境に困難を抱えており、問題児扱いされていたことを知りました。
普段は途中で帰ってしまうのに、私のアクティビティには最後まで残り、質問までしている様子を見た人から「あのような積極的な姿は初めて見た」と言われ、感動しました。
それ以来、小さなイベントであっても一回一回、心を込めて活動しようと思いました。ほかにも、大学でのインターナショナルウィークというイベントも印象に残っています。訪れてくれた約300人の高校生を、5つほどのグループにわけ、日本を紹介するプレゼンテーションをしました。人口8,000人のコミュニティのうちの300人です。やりきった、頑張ったという充実感がありました。
私よりも前に派遣されたJOIコーディネーターから小学校時代に日本文化を学び、ウェストバージニアの大学の日本語科に進んだ人のインタビューを関係者から見せてもらったことがあります。
ウェストバージニアには貧困家庭も多いため、私が関わった子供たちがどれくらい大学に進学できるかは分かりません。しかし、私の活動を通して子どもたちが、日本に関係すること、あるいは何かポジティブな面を受け取り思い出してくれたら、とてもうれしく思います。


JOIを通して得たもの-自分への自信
JOIでの活動を通して、自分で考える力を鍛えられ、アイデンティティも確立でき、自分に自信を持てるようになりました。考え方や価値観が大きく変わったと、今、改めて実感しています。
JOIプログラム参加前、企業に勤めていたときは「上司に評価されないとダメだ、ミスしてはダメだ」というプレッシャーを感じながら働いていました。営業のプレゼンテーションで発表する内容は、会社の方針に従ったことを言うだけで、自分の意見はどうでもいいことだったわけです。ところが、JOIでは自分で一から話す内容を組み立て、段取りをし、発表をします。それは自分にとって、初めての経験でした。
ある学校から訪問を依頼されたとき、先生は私を信頼し「何をやってもいいよ」と言ってくれました。私は「子どもたちに楽しんでもらいたい、喜んでもらいたい」と、相手を思いながら活動内容を考えました。「自分が評価されるかどうか」は重要ではなくなっていたのです。
2年目に入ると、エンターテイメント力も付いてきて、自分の足跡が残せるのではないかとワクワクしました。自分の考えを自分の言葉で伝えることを繰り返すうちに、重要なのは、評価されることや何かを勝ち取ることではなく、自分のしたことを受け入れてもらうことなのだと考えるようになりました。
留学生には「学生」という肩書や立場があります。しかしJOIコーディネーターには、そのような分かりやすい型はありませんので、常に「自分は何者か」を考えさせられましたし、それを相手に伝えていく日々でした。
次第に、自分という存在がきちんとしていれば、相手に認めてもらえるということがわかりました。わかりやすい型や既存のカテゴリーに、無理に自分をあてはめる必要はないと気づいたのです。
アメリカにいる間に少しずつ起きたこの変化を、帰国後も維持できるか不安でした。しかし、それは杞憂(きゆう)でした。日本に帰ってきてからも、自分の考えや気持ちをどこにでも伝えることができています。自分が生きやすいように、思考や行動を工夫できるようになったと思います。
JOIの経験は、自分の生きたい方向への足掛かりになっている
JOIに参加して得た自信は、生き方に対する考え方や価値観を大きく変えました。仕事に関しても、評価や給与ではなく、自分にとってやりがいがあることをしていきたいと思うようになりました。現在、主に産業資材を扱う貿易商社の海外営業の部署で、東南アジアを担当しています。
JOIで鍛えられた臨機応変な対応力や英語力、プレゼンテーションの能力が役に立っています。でも、それ以上にアメリカに行った2年で自分に自信が付いたことが、一番活きていると思います。営業職に求められるのは売り上げを上げることですが、それ以外でも自分が評価されるべきところがあるのだと、考えられるようになりました。
JOIに参加したいと考えている人、関心がある人へのメッセージ
JOIでの2年間はとても有意義で、一生の思い出となりました。ウェストバージニア州は私の第二の故郷と言えるような大切な場所です。仕事面でも、JOIに参加した経験が今のキャリアに活きていると思っています。JOIは一生の財産となる機会だと思いますので、躊躇なく参加してほしいと思います。応援しています。
